サイン(18本目)(ASIN:B00006IZRF)

人には2つのタイプがある。

ひとつは、この世には偶然などなく、

奇跡が存在すると信じているタイプ。

もうひとつは、すべては単なる偶然で、

未来は自分次第なのだと思うタイプ。

昨日の夜、最寄のコンビニにてくてく歩いて弁当とお茶とビールを買いに行った。

うちの近所は住宅街なので、道路幅が狭い。普通車同士ですれ違うのにけっこう減速が必要なぐらいに。

その道路のほぼど真ん中に、引越屋のトラックがドドーンと止まっていて、小渋滞、いやそれなりの渋滞になっていた。クラクションを鳴らしている車もある。



渋滞の横を通り過ぎて暫く歩き、コンビニに入ると、あきらかに足りてない感じの金髪のお兄さんが店員に

「すんませ−ん、コーポ○○ってこの近所にありますか?」と尋ねていた。

着ているツナギの背中には、先程道路を塞いでいたトラックと同じアヒル(?)のマーク。

そのコンビニは粒ぞろいのLOW-IQばかりをバイトとして採用する、一風変わった人事制度を行っているのだが、案の定、

店員の女の子「知りません」

引越屋の青年「地図売ってないっすか?」

店員「売ってません」

青年「地図貸してくれないっすか?」

店員「今店長がいないので貸せません」

青年「一瞬見るだけなんで」

店員「それなら・・・(と地図を取り出す)」

(えっ?一瞬見るのなら店長の許可無く貸せるのかよ!)

暫く難しい顔で地図を眺める青年。

青年「すんません、ここ何処ですか?」

店員「スリーエフです!」

青年「い、いや、住所・・・、あ、有難うございました。」



僕も丁度買い物も終わり外に出ると、さっきまで4台ぐらいの渋滞だったのが

7〜8台ぐらいに膨れあがってる。住宅街で8台の渋滞っていったらエライことだ。

その横で余裕の面構えで電話する引越屋の青年。

「場所がわかんなくて、結構似た感じのは・・・え、聞こえないっす」

電話をしながらテレテレと渋滞の先に歩く青年。4〜5m歩いたところで、やっと状況に気づいたのか突然走り出す。

「てめえ、通れねえだろうがよぉ!」

窓から顔出して怒声を上げるオッサンに、ペコリと頭を下げてトラックに飛び乗る。

エンジンを掛けて、走り出したと思った瞬間、

ガリガリガリガリッ」

と民家の塀でボディーを擦りあげる。塀の上に置いてあった鉢植えが3つとも綺麗に落下し、「ガジャーン!」と完璧な音を立てて割れる。

慌ててバックするトラック。次の瞬間、

「ガシャッ」

すぐ後ろに止まっていたRV車のバンパーにトラックの荷台がメリこむ。

その時間の出来事は、すべてがスローモーションで、すべてが完璧に美しかった。



すぐに家に帰って弁当を玄関に置き、

車を走らせレンタルビデオ店に行き、

「サイン」を借りた。

僕は一切信仰は無いが(あえて言うなら悪魔崇拝ぐらいで)、

あの瞬間なら

どんなチンケな新興宗教でも

入信しただろう。





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